World > Africa > Ghana

Artist

SWEET TALKS / A. B. CRENTSIL

Title

HOLLYWOOD HIGHLIFE PARTY / MOSES


hollywood highlife
Japanese Title 国内未発売
Date 1978/1983
Label POPULAR AFRICAN MUSIC ABC301(DE)
CD Release ?
Rating ★★★★★
Availability ◆◆◆


Review

 C. K. マンやアレックス・コナドゥをはじめ、70年代以降のガーナ・サウンドにはイマイチなじめないわたしだが、スウィート・トークス(正式には“スーパー・スウィート・トークス・インターナショナル”)は別。
 
 首都アクラにちかい港湾都市テマにある“トーク・オブ・タウン・ホテル”というホテルとは名ばかりの平屋建ての建物。スウィート・トークスは、そのホテルの専属バンドとして1973年に結成された。かれらは水・金・土・日の週4日、ステージにのぼったが、なかでも日曜日は“サンデイ・アフタヌーン・ジャンプ”と名づけて、低所得者層にもひろく門戸を開放した。なにせ、港湾都市のこと。荒くれ船乗りやら、チンピラやら、売春婦やら、あやしい連中がたくさんいた。そんななかで揉まれて育ったかれらの音楽は柔軟でたくましい。
 70年代になると若者たちのあいだではすでに「古くさい」と思われていたハイライフを、スウィート・トークスはソウルやリンガラ音楽の要素を大胆にとりいれることで、ファンキーなダンス・ミュージックに仕立て直した。
 
 75年のデビュー・アルバム"ADAM & EVE"(ASANTI V2 ASHR2001(UK))から、"KUMASI BEAT""SPIRITUAL GHANA"、そして79年のラスト・アルバム"HOLLYWOOD HIGHLIFE PARTY"まで、リリースされたLPの数はわずか4枚にすぎない。(英国のスターンズからリリースされているCD"THE LORD'S PRAYER"(STERN'S AFRICA STCD 3009 (UK))は、2枚目か3枚目のLPの完全復刻と思われる)。
 
 バンドのリーダーはたしかトランペットとヴォーカル担当のアーサー・ケネディだったと思うが、ほとんどの作詩・作曲を手がけ、事実上、バンド・カラーを決定していたのはカリスマ的なリード・ヴォーカリスト、A. B. クレンジルである。
 "ADAM & EVE"から、クレンジルは一貫して信仰をテーマにとりあげてきた。折りしも、ガーナでは70年代後半ごろからニュー・チャーチ運動が盛り上がりをみせていたことから、こうした流れに沿ったものと解釈できるかもしれない。といっても、クレンジルは、ゴスペル・ハイライフのようにひたすら神を讃えるばかりでなく、そこに痛烈な皮肉やユーモアを込めていたことから、いつも論争の的になっていたという。ソロになった83年に発表された'MOSES' にいたっては、ついに放送禁止の憂き目にあったほど。
 
 ドイツのPAMからリリースされた本盤は、アメリカでレコーディングされたラスト・アルバム"HOLLYWOOD HIGHLIFE PARTY"と、クレンジルのソロ・アルバム"MOSES"を2オン1した徳用盤。
 
 "HOLLYWOOD HIGHLIFE PARTY" は、クレンジルのミョーに説得力あるアーシーなヴォーカルを中心に、エリック・アジェマンほか2ギター、キーボード、ベース、ドラムス、2パーカッション、3ホーンズ、それにトニー・メンサーのヴォーカルを加えた総勢12人の大編成。"ADAM & EVE"ではゴスペル・タッチのオルガン・プレイに代表されるソウルフルなハイライフ・サウンドだったが、そこから独特の“臭み”が抜けて、モダナイズされ、サウンドが全体にシャープに研ぎすまされた印象を受ける。ソウル、ディスコ路線とともに、リンガラ音楽からの影響がつよく感じられるのも本盤の特徴。また、聴きようによっては、ハイチのタブー・コンボによる80年代のサウンドを連想させるところもある。
 
 圧巻は16分40秒におよぶ大作'YE WO ADZE A OYE'。クレンジルの聴衆を煽るような饒舌なヴォーカル、おそろしく切れ味するどいドラムスやコンガほかのパーカッション群、トランペットとフリューゲル・ホーンとのジャジーなインタープレイと、まったく中だるみするところないスリリングな演奏が展開される。
 これほどまでに完成度の高いサウンドをつくり出していたのにもかかわらず、かれらが解散にいたった理由は、ガーナ経済が極端に落ち込んだ結果、政局の混迷は極限に達し、ついに午後6時以降は外出を禁止する戒厳令が敷かれたせいである。
 
 ここらで本盤に参加している主要なメンバーのその後について、すこしふれておこう。
 ギタリストのエリック・アジェマンは、本盤でもトランペッターとして参加しているトミー・キングとともに、名門ドクター・グヤーシのノーブル・キングの出身。スウィート・トークス解散後は、ソロ・アルバム"SAFARI HIGHLIFE"などを発表したのち、82年にヴォーカルのトーマス・フレンポン、トミー・キングらとコクロコを結成したハイライフの大物である。だが、ここでは、自作曲'EHURISI' を除けば、意外と地味で堅実なプレイに徹している。
 また、クレンジルの強烈な個性の影に隠れて目立っていないが、ヴォーカルのトニー・メンサーもバンド解散後、多くのアルバムをものにし現在も活躍つづけるスターのひとりである。
 
 しかし、最大のスターは、やはりなんといってもA. B. クレンジルでしょう。本盤後半に収録の、クレンジルが83年に発表した"MOSES" は、軽快でスピーディなダンス音楽だった"HOLLYWOOD HIGHLIFE PARTY"とはうってかわって、クレンジルのヴォーカルをじっくりと堪能してもらうために、楽器編成を極力シンプルに押さえた('WHANNA BEKA' を除けば)ミディアム・テンポ中心の楽曲構成。リンガラ色は後退し、ガーニアン・ソウルと呼ぶのがふさわしい内容となっている。なかでも、15分48分におよぶ大作'MOSES' は、シンプルでレイジーなバックにのせて、説教者のように、はじめは淡々と、後半にむかうにしたがってジワジワと熱くなってくるクレンジルの語りと歌がすばらしい。
 
 こんなにエクセレントな2枚のアルバムをパッケージしてしまうなんて、PAMはなんて太っ腹。いうことありません。


(6.23.03)



back_ibdex

前の画面に戻る

by Tatsushi Tsukahara